サービスラーニング教育と「3つの智慧」の教え

 今年の流行語のひとつに「18歳選挙権」という言葉がノミネートされるのではないか、というほど、毎日、新聞やテレビの報道で「18歳選挙権」という言葉を目にしました。昨年、公職選挙法が改正され、選挙権年齢が20歳から18歳以上に引き下げられ、新たに全国で240万人、千葉県内では約11万6千人の18歳と19歳の若者が有権者になりました。また法改正後、主権者教育の取り組みも進められ、私もいくつかの高校で主権者教育の授業をさせていただきました。淑徳大学千葉キャンパスでは、2日間限定ではありますが、臨時の期日前投票所が設置され、学生の皆さんが、期日前投票所の運営に関わりました。
 私自身が主権者教育のプログラムを通じて、高校生や大学生の皆さんにお伝えしてきたことは、「政治や選挙に、最初から興味や関心を持つのは難しいかもしれないが、まずは、身近な現実、目の前の現場に興味や関心を持ってみよう」というメッセージでした。当事者として、身近な現実、目の前の現場にある自分自身の「幸せ」、周りの人の「幸せ」に目を向けて、考えてみること、そして行動をしてみることが、主権者としての第一歩であると思います。
サービスラーニング教育を考えるときに、私は「聞・思・修」という3つの「智慧」の言葉を思い出します。「聞慧」とは、教えを聞くことで得られる智慧です。「思慧」とは思考する、自分の中で考えることから得られる智慧です。「修慧」とは、行動すること、実践することから得られる智慧です。こうした「聞・思・修」の3つの段階を経て、智慧は完成していくと考えられます。サービスラーニング教育では、社会の問題を知り、考え、行動すること、つまり「聞・思・修」の3つの段階をつなぐとともに、「修慧」から、新たな問題意識が寛容され、学ぶことへの動機、意識が高まることで、智慧の形成の循環を作り出すことができると思います。
 そこで生み出される意識や知識のひとつに、主権者としての意識や知識も含まれることでしょう。「選択」という行動は、現在を選択することだけではなく、現在を選択することによって、未来を選択することにもつながります。なぜならば、過去、現在、未来は、時間によってつながっているからです。過去の選択から学び、未来のことを考え、現在において選択するのです。そうした選択を可能にするのは、自己の中に持つ「種」を育み、そして芽を吹かせ、花を咲かせるというエンパワーメント型の教育を通じた「智慧」ではないでしょうか。このように考えると、サービスラーニング等の社会参画型の学びは、主権者教育においても重要な意義を持ちます。
 主権者教育とは、政治のことを学ぶ、選挙のことを学ぶことだけではありません。日々の生活の中で、いかに問題を発見し、その問題の解決方法を考え、選択し、行動するための知識やスキルを身に付けることであると思います。しかしながら、主権者教育では、どうしても政治のことを学ぶ、選挙のことを学ぶことに偏ってしまいがちです。ここで、少し立ち止まり、真の「主権者教育」の在り方を、「聞・思・修」の3つの智慧の言葉を思い出しながら、サービスラーニング教育を通じて、どのように展開をしていくのかを考える機会ではないかと思います。

2016年3月
淑徳大学サービスラーニングセンター運営委員長
矢尾板俊平
(コミュニティ政策学科長)

淑徳大学サービスラーニングセンター年報第6号(2016年3月発行)「巻頭言」に掲載
(一部、加筆・修正)