他者の存在を通じて、自己の存在に気づく

 いま、世界は大きな変化に直面しています。英国では、昨年6月の住民投票の結果、EUからの離脱が決まりました。米国では、昨年11月にドナルド・トランプ氏が大統領選挙に当選し、本年1月に新大統領に就任しました。これから行われるフランス大統領選挙やドイツの国会議員選挙でも、何かしらの変化が起きるかもしれません。こうした変化の本質は、「グローバル化」、「多様性の尊重」、「民主主義」などの普遍的な価値に大きな変化を与えうる胎動が起きている中、私たちは、何を考え、どのように行動していくべきなのでしょうか。これまでの「秩序」が新たな「秩序」に向かうリメイクのプロセスの中に、私たちは存在しているように思います。
 日本国内に目を向ければ、2016年7月に行われた参議院選挙は、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて初めての国政選挙となりました。参議院選挙での投票率を見てみると、総務省の発表によれば、18歳、19歳の投票率は、全国で46.78%であり、20歳代の投票率と比べると、11ポイントほど上回る結果となりました。千葉キャンパスでは、2日間限定ですが、期日前投票所をキャンパス内に設置いただき、学生にとって、選挙や政治を身近に感じる機会となったことと思いますし、投票所の運営業務にサービスラーニングの一環として従事することができ、学びの機会を頂けたと思います。千葉市内の他大学においても、若者の投票率を向上させようと、様々な取り組みが行われたことと思います。お互いに、他大学の学生が取り組んでいることを知り、自分たちの取り組みをより良いものにしようという意欲が高まり、努力をしていく。こうした切磋琢磨する環境が生まれることは、学生の皆さんの成長にとって、とても大切なことだと思います。お互いに刺激をし合い、切磋琢磨していくことを通じて、新たなエネルギーを生み出し、イノベーションを起きていく。これは人類が歩んできた成長の歴史でもあります。大学教育の中で、このような環境をいかに作っていくか、これはサービスラーニングのプログラムを設計していく上でも、考えていくべき視点ではないかと思います。自分たちだけで学びが完結をしてしまうのではなく、他者の学びを知り、そこからも学んでいくことで、その学びはさらに深化していくと思います。
 サービスラーニングの取り組みを通じて、学生の皆さんに理解を深めて欲しいことは、自分の隣には、必ず他者が存在しているということです。他者の存在を通じて、自己の存在に気づくという体験なり、経験なりが重要だと思います。アイデンティティの確立は、異質なものが存在することにより、可能であると思います。サービスラーニングやPBLなどでの活動では、時に、相手に提案をするということもあり得ると思います。この時に、自分たちの視点だけで物事を見て、「もっともらしい」提案をしてしまうことがあります。本来は、そうではなくて、他者の価値観を前提にした上で、自分たちの視点から考え、提案をすることが重要なのです。サービスラーニング教育を通じて、このような訓練ができると良いと思います。
 世界や私たちを取り巻く環境が変化していく中で、変わらないことは、目の前には、現実の生活があり、そして課題があるということです。そこにある幸せ、さらには痛みに対して、私たちは何ができるのか。それを考えるためには、他者を知り、他者の存在を認識することで、自分を見つめ直し、自己に気づくという繰り返しが重要なのです。
 サービスラーニングセンター年報も第7号となり、サービスラーニング教育の知見が積み重なってきました。サービスラーニング教育の次なるステージへの発展に向けて、引き続き、皆様のご支援とご協力を頂きたく存じますので、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。

2017年3月
淑徳大学サービスラーニングセンター運営委員長
矢尾板俊平
(コミュニティ政策学科長)

淑徳大学サービスラーニングセンター年報第7号「巻頭言」(2017年3月発行)に掲載。(一部、加筆・修正)