投票率と民意のはなし

 選挙のたびに話題になる「投票率」のはなし。私自身は、「投票率」は、民主主義のひとつの事象に過ぎないと思っています。日頃から、どのように社会に、地域に関わっているのか、社会や地域の意思決定プロセスの中で、自分自身の「幸せ」にアクセスする機会があるのか、また、そうしたプロセスが確保されているのかということによって、選挙に関心を持ったり、実際に投票のための行動が変わってくると思います。つまり、毎日の生活の中で、いかに自分の意見を表出し、決定に関わる機会が保障されているのか、ということが、結果として、投票率につながっているのだと考えています。
 重要なことは、自分の身の回りのことに関心を持ち、自分ができることで、そこに関わることだと思います。そうしたことの積み重ねが大切なのだと思います。
もうひとつ重要なことは、自分が投じた一票は、選挙の勝敗だけに影響を及ぼすわけではないということです。確かに、勝敗だけで言えば、自分が一票を投じたところで結果は変わらないかもしれません。しかし、当選者がどのぐらいの得票を得たのか、ということは、その後、当選者が自分の政策を推進する上で、大きな推進力になるということです。一方、落選者がどのぐらいの得票を得たのかということは、当選者の政策にブレーキをかけることになるかもしれません。
 まさに「民意」が「見える化」される瞬間でもあります。

『民主主義』という普遍的な価値を追い求めて

 「ちばでも」は、2012年衆議院総選挙時に、千葉1区立候補予定者公開討論会を開催したときから始まりました。淑徳大学コミュニティ政策学部の1期生有志と、当時、週1回、千葉みなと駅のタリーズコーヒーで「朝カフェ」を開催していた地域の有志の皆さんと一緒に手作りではありましたが、千葉1区から立候補を予定している候補予定者の方々にお集まりいただき、議論していただきました。
 翌年、2013年の参議院選挙は、選挙活動においてインターネットの利用が解禁された最初の国政選挙となりました。それまでは、インターネットの利用は、告示日前日の23時59分まで。後は、有権者は候補者の演説に足を運ぶしかありません。インターネット利用の解禁により、候補者は有権者と物理的な制約を超えて、対話を図ることができるようになりました。「ちばでも」では、千葉選挙区の立候補予定者にアンケートを実施し、政策比較表を作成し、WEBサイトに掲載しました。
 2016年の参議院選挙は、国政で初めて選挙権年齢が18歳に引き下げられた選挙となりました。今後、被選挙権年齢についても考えていくことで、若者の政治参画の可能性は高まっていくと思いますが、2012年から始まった「ちばでも」の歴史は、わが国の選挙制度が大きく変化した10年の歴史と重なります。
 「ちばでも」が目指すことは、有権者に「選択するための判断材料」を提供することです。そして、日本の民主主義を成熟させていくという壮大な夢を描いています。
 民主主義とは、政治制度のひとつでもありますが、その言葉には、普遍的な価値が込められていると思います。その価値とは、「社会は、あらゆる考え方や存在を受容し、法の下に平等であり、自由が保証された上で、選択を行っていくこと」であると言えます。
 多様な意見がある中で、自分の意見もしくは自分に近い意見が選択されることがあるでしょう。一方、そうした意見が選択されないこともあります。選挙に立候補すれば、時には勝利し、時には敗北するかもしれません。自分が応援している政治的プロジェクトが成功することもあれば、失敗することもあります。これらのことは、民主主義という普遍的な価値が成立しているからこそ、私たちは、何らかの行動ができ、また、自分たちの幸福を追求することができるのです。
 政治のことは難しい。自分が一票いれたところで何も変わらない。この社会はなんだか理不尽だな、たくさんの不満がある。こんな言葉を耳にします。まずは、自分の身の回りのことから関心を持ってもらいたいと思います。自分の一票では、国のことは何も変わらないかもしれないけれども、自分の身の回りのことに関心を持って、自分ができることをやってみることで、自分の身の回りにある問題は解決できるかもしれないし、何か変えることができるかもしれないのです。実は、自分の身の回りのことは、市区町村、都道府県などといった自治体の仕事に大きく関わっている可能性が高いですし、皆さんのひとつの行動は、そうした自治体の取り組みを変えることに影響力を持つかもしれません。
 「ちばでも」というプロジェクトは、そうしたことのひとつの「きっかけ」かもしれません。選挙は、18歳以上の誰もが自分の意見を投票という形で表現できる機会です。
 有権者に選択肢と対話を。「ちばでも」は、これからも民主主義という普遍的な価値を追い求めていきます。

淑徳大学コミュニティ政策学部教授
矢尾板 俊平

参院選2019を振り返って(2)

本当の争点は「世代間の利害配分」問題

 今回の参院選での各党のマニフェストを通覧しましたが、消費税率については意見が異なりましたが、幼児教育・保育無償化、高等教育の無償化、最低賃金の問題等の部分では、大きな違いはありませんでした。(学校給食の無償化には違いがありました)
 与野党問わず、「大きな政府」志向であることに変わりはありませんが、ここで選挙戦を通して、議論してもらいたかったのは、その財源をどのように確保していくのか、という点です。増税なのか、借金なのか、または徹底的な歳出削減を行っていくのか、将来世代の負担も考慮しながら、こうした政策を実施していくための財政的な裏付けをもっと議論してもらいたかったと思います。政党・候補者にとっては言いにくい話だと思いますが、その議論を行うことも政治の責任だと思います。
 今回の参議院選挙の争点とするべきであったのは、「世代間の利害配分」問題です。人口が増加し、経済成長率が高い時代は、その恩恵をいかに分配するかという問題が争点でした。しかし、人口が減少し、経済成長率が低い時代、そして超高齢社会が到来する中で争点となるのは、いかに社会全体の負担や不可を分担するかという問題です。財政問題然り、原発・エネルギー問題然り、社会保障・年金問題然りです。こうした問題を将来世代の負担も考慮した上で、世代間での利害を調整していくことが、新たな政治の役割であると考えます。
 また、こうした争点において、将来世代を担う若年世代が自分たちの意見をしっかりと伝えていく環境を作ることが大切だと考えています。

参院選2019を振り返って(1)

諸派の躍進

 今回の参院選で象徴的なのは、れいわ新選組とNHKから国民を守る会が比例代表区で議席を獲得するとともに、得票率2%を超え、政党要件を満たしたことです。特にれいわ新選組の比例代表での得票率は4.5%で躍進と言えるでしょう。
 このような結果は、若年世代への調査から、事前に予測することができました。自民党には投票したくないが、既存政党の野党で投票先もない。だから投票に行くのをやめよう、とか、投票するならば、既存政党ではない野党である「諸派」に投票しようという投票者の行動心理が働くのではないかと予測していました。それが「低投票率」と「諸派グループの躍進」という結果に結び付いたように思います。
 野党は、有権者からの信頼を獲得すべく、戦略的な野党再編や連携を進めていく必要があるのではないかと思います。

ちばでも参院選2019

千葉選挙区候補者アンケート
“若者からの7の質問”

私たちは、若者がもっと政治や地域のことに関心を持つことによって、若年世代の投票率の向上を目指し、活動をしています。今回の参議院選挙においても、若年世代をはじめ有権者にWEBで候補者の皆さんのことを知っていただきたいと考え、アンケート調査を実施させていただくことにいたしました。今回は、「若者からの政策提言」ということで、若者の考えを候補者の皆さんにお伝えし、それに対する意見をご回答いただくことで、若年世代の関心を高められればと考えております。

Manifesto from Yong Voters
~若者たちの選択 若者からの10 の提言~

Manifesto from Yong Voters(PDFファイル)

アンケート結果

ご回答いただいた方の回答内容を公開いたします。ご協力ありがとうございました。
浅野史子さんからの回答(PDFファイル)
門田正則さんからの回答(PDFファイル)

千葉市議会議員選挙の分析(2)

現職・無所属の方は、お一人の方を除き、4名の方は各得票数を伸ばしたという結果になりました。議会活動をがんばっておられる方々で、その活動を有権者がしっかりと評価された結果と思います。

今回の千葉市議選挙は、特定の支持基盤を持たない無所属・新人の方にとっては苦しい戦いになりました。無所属・新人で当選されたのは、お一人だけでした。

現職の当選率は95.56%、新人・元職の当選率は35.00%でした。ここに、新人の方でも前職の方の後継候補として位置付けることができる方を「現職」として位置付けると、現職の当選率は95.83%、新人・元職の当選率は23.53%となります。

この要因のひとつには投票率の低さがあると考えられます。

投票率は、中央区で2.9P、花見川区で2.33P、稲毛区で3.96P、若葉区で3.52P、緑区で0.93Pのマイナスでした。(美浜区は0.57Pのプラス)。これに基づき、計算してみると、投票率の低下により、中央区では4,888票、花見川区では3,409票、稲毛区では5,100票、若葉区では4,368票、緑区では964票が「消えた票」になりました。もちろん歴史に”if”はありませんが、もし投票率が前回並みであれば、各区の選挙結果は変わっていたかもしれません。

このように考えると、選挙戦略の策定においては、候補者の「知名度」を高めることと同時に、「投票率」を向上させるための戦略も必要だと思いました。

「投票率」の向上は、複数の候補者同士が連携して行える戦略であると言えます。もちろん、一人だけが当選する小選挙区の衆議院総選挙や首長選挙では難しいかもしれませんが、地方議会選挙のように、大選挙区、中選挙区での選挙であれば、複数の候補による「プラットフォーム戦略」が有効かもしれません。

さらに、「投票率の向上」は、どの地域でも課題ですから、地域を超えた連携、「プラットフォーム戦略」も有効だと思います。

私自身は、想いを共有し、一緒に活動いただける方々とこの「プラットフォームづくり」に取り組みたいと思います。

千葉市議会議員選挙の分析(1)

今回の千葉市議選の結果について、分析を行っています。

まず、政党別の得票率を計算してみると、自民:34.62%、公明:15.64%、国民:8.41%、立民:12.00%、共産:10.39%、ネット:2.71%、無所属・諸派:16.24%(手計算なので間違いがあるかもです)となりました。これを議席数に換算すると、ほぼ今回の選挙で各政党が獲得した議席と一致します。

次に、民主系(国民民主党公認、立憲民主党公認)候補を見ると、前回の得票数との比較も踏まえると、国民民主党の公認候補の得票数は減少していますが、立憲民主党の公認候補の得票数は増加していることがわかります。今回、立憲民主党は4人の新人が当選しましたが、全体的には、国民民主党と立憲民主党の旧民主党系同士の票の奪い合いとなり、新たな票を掘り起こせていないケースとして見ることができます。特に稲毛区では、今回の民主系候補お二人を合わせた獲得票数は、前回の民主系候補お二人を合わせた獲得票数とほぼ一緒(148票減)となっています。

今回は千葉市議会議員選挙の結果のみの分析ですが、全国の選挙の分析を行うと、全体の傾向が見えてきて、それが国政選挙の行方を占う材料にもなります。

えっ、それは国の仕事じゃないの?


ちばでも2019のページ

えっ、それは国の仕事じゃないの?

千葉県議会議員選挙、千葉市議会議員選挙、3日目を迎えました。
駅に行くと、昼も夜も、多くの候補者が演説しています。その演説を聞いていると、政党の政策ではなく、候補者自身の政策に関してですが、「それは国の仕事では?」と思うことや、市議会議員選挙の立候補者の演説を聞いていると「それは県の仕事では?」と思うことがあります。
そもそも、国、広域自治体、基礎自治体は、それぞれ「権限」が違うので、「できること」と「できないこと」があります。少なくとも、「国の仕事」、「広域自治体の仕事」、「基礎自治体の仕事」は整理しておく必要があると思います。
もちろん、多くの候補者の皆さんは、勉強されて、ご自身なりの考えをまとめ、主張をされています。しかし、時に「勉強不足だなぁ」と感じる候補者がいることも事実です。
また、抽象的な政策を語る候補者もいます。現在、EBPM(エビデンス(論拠)に基づいた政策形成)の取り組みが進められており、候補者にも、データや分析結果などの論拠、「エビデンス」に基づいて政策立案をして欲しいと感じます。その点では、政策研究者の役割は重要になっていくかもしれません。
候補者の皆さんには、「政令市」の仕事、権限を整理された上で、地域の課題解決のために、具体的に、何を、どのように取り組むのか、ということを示して欲しいと思いました。

選挙は、「ゴール」か「プロセス」


ちばでも2019のページ

選挙は、「ゴール」か「プロセス」か

さて、3月29日全国で道府県議会選挙、政令市の市議会議員選挙が告示されたのですが、千葉県議会議員選挙では、千葉市稲毛区と千葉市若葉区を始め17選挙区が無投票になりました。ちなみに三重県議会議員選挙も、松阪選挙区も無投票になったようです。

供託金、活動資金、職場の理解、周囲からの評判。様々なハードルがあると思います。投票率の問題も指摘されますが、地域によっては、立候補者数の問題も大きな課題です。

選挙とは「ゴール」なのでしょうか。それとも「プロセス」なのでしょうか。

地方選挙で候補者や応援演説で聞きたいことは、永田町の論理や政党の論理でもなく、有名人の話でもなく、候補者自身が、自分たちの「まち」の問題を、どのように考え、その問題に対して、具体的に、4年間、どのような活動していくのか。その考えやプランです。それを有権者が評価して、投票先を決める。これが本来の「民主主義」だと思います。

その意味で、選挙は「プロセス」だと思います。選挙というプロセスの中で、候補者自身を育てるプロセス。候補者が掲げる政策が掘り下げられ、共感が広がり、議論を尽くし、「みんなの考え」となっていくプロセス。

そのプロセスを作っていくためには、積極的に候補者同士の議論をしてもらいたいです。自分の意見を主張するだけではなく、議論を戦わせてもらいたいと思います。

選挙は議論を深める機会 -民主主義のインフラづくりを進めよう-


ちばでも2019のページ

選挙は議論を深める機会-民主主義のインフラづくりを進めよう-

3月29日(金)から、千葉県議会議員選挙と千葉市議会議員選挙が始まります。「投票率」にも注目が集まりやすいのですが、選挙期間直前に「投票に行こう」と活動をしても、実際の投票行動に結び付くかどうかは難しいところです。大切なのは、普段から、自分の身近な問題に関心を持つこと、自分に関わる集合的意思決定に関わり、「決める」経験、「変える」経験をすることが重要だと思います。
選挙期間は、候補者の方が、自分の考えや意見を有権者の方に主張できる機会でもあります。名前の連呼だけではなく、ぜひご自身の意見を主張していただきたいですし、有権者も交えて、大いに議論を深め、論戦を繰り広げてもらいたいと思います。
選挙とは、「議論を深める機会」だと思います。そのためには、まずは「知る」こと、次に「関心」を持つこと、そして、自らが何らかの形で「関わる」ことが必要で、そうした仕組みをデザインする必要があります。
そこで、矢尾板研究室では、ゼミ生の皆さんと一緒に、WEBページを通じて、議論を深めるための情報を集め、発信することになりました。
特定の候補者を応援するためではなく、みんなで議論を深め、みんなで、社会の課題を解決していく、そうした民主主義のインフラづくりを進めていきたいと思います。