3年生のテーマと解題

テーマ:「日本社会において、適切なガバナンスを可能とする制度をいかに設計していくべきか」

 「ガバナンス」という言葉は、時に、さまざまな単位の集合体や分野を対象とし、幅広い概念として使われています。例えば、「政府ガバナンス」、「自治体ガバナンス」、「議会のガバナンス」、「コーポレート・ガバナンス」、「コミュニティ・ガバナンス」、「グローバル・ガバナンス」などが挙げられます。また「エネルギー・ガバナンス」、「インターネット・ガバナンス」、「財政ガバナンス」など、何らかの特定の問題・課題に対する行為にも使われています。
 上記に挙げた例から「ガバナンス」という言葉を捉えると、「ガバナンス」とは、複数の主体が相互に作用し合い、何らかの集合的な意思決定をしながら、時には何らかの力を及ぼしながら、ある一定の「状態」を形成していく行為であると暫定的に意味づけられるのではないかと考えられます。
 現在、日本社会は、こうした「ガバナンス」に関わるさまざまな問題に直面しています。例えば、社会的にも大きな関心を寄せられている「モリ・カケ問題」は、公共選択の問題として捉えると、どのような問題があると言えるでしょうか。「森友学園問題」では公文書の書き換えも明らかになり、行政のガバナンスへの信頼そのものが揺らぐ事態へと発展しています。「加計学園」の問題は、今後、国家戦略特区や規制改革など、行政のガバナンスの手続きに対する示唆を与えるかもしれません。「安倍一強」という政治状態を作り出したのは、もしかすると官邸の政治や行政に対するガバナンスが強く働いた結果なのかもしれません。
 また「コーポレート・ガバナンス」の問題に目を向けると、これまでも多くの企業の不祥事に対して、厳しい指摘がなされてきました。その中で、多くの企業がコーポレート・ガバナンス改革、内部統制システムの導入を進めてきました。近年では、取締役の選任の仕方や機関投資家との関係を問題とする報道も目にします。今後、ESG投資(環境「Environment」・社会「Social」・ガバナンス「Governance」に力を入れる企業への投資)の考え方が拡大していけば、企業は「ガバナンス」の問題に、さらに注力していく必要があるでしょう。
 さらに、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術の発展は、政治や経済にも大きな変化をもたらしています。SNS等の拡大により、民主主義の在り方も変化していくかもしれませんし、仮想通貨等の拡大により、市場経済も変化をしていくかもしれません。このような技術が進展していく中で、これまでの「ガバナンス」に関わる制度やルールでは対応しきれず、新たな問題を生み出していくことになるかもしれません。「制度」をある一定の均衡状態であると考えれば、社会環境の変化に伴い、制度自らも集合的意思決定を通じて変化していく必要があると言えるでしょう。
 この解題で紹介した問題や分野以外で、論文を作成していただいてもちろん結構です。今年度の学生の集いでは、「ガバナンス」という言葉を「キーワード」としながらも、学生の皆さんが研究対象を自ら設定し、自ら課題を発見し、適切なガバナンスを実現ならしめる解決策を具体的に提案していただきたいと思います。政治・行政・企業・地域の問題、原発などのエネルギー、IoT技術やインターネット、安全保障・外交、財政などの課題など、皆さんの最も得意なテーマを選び、学生らしい独創的かつ面白みのある議論を大いにしていただきたいと思います。その際に、学生の皆さんなりに「適切なガバナンス」について、何らかの指標を用いて、不完全であっても、それを計測する工夫をしてみること、学生の皆さん自身が、インタビューやヒアリング、フィールドワークなどを通じて情報やデータを集め、学生ならではのオリジナリティを発揮されることを期待しています。
 なお、次の文献は論文作成の参考になると思いますが、これら以外の書籍や論文も先行研究としてしっかり読んでおいてください。

(参考文献)
川野辺裕幸・中村まづる編著(2013)『テキストブック公共選択』勁草書房
川本明(2013)『なぜ日本は改革を実行できないのか‐政官の経営力を問う‐』日本経済新聞出版社
加藤創太・小林慶一郎編著(2017)『財政と民主主義 ポピュリズムは債務危機への道か』日本経済新聞出版社
丸尾直美・宮垣元・矢口和宏(2016)『コミュニティの再生‐経済と社会の潜在力を活かす‐』中央経済社
八代尚宏(2018)『脱ポピュリズム国家』日本経済新聞出版社
ロジャー・コングルトン[横山彰・西川雅史監訳](2015)『議会の進化‐立憲的民主統治の完成へ‐』勁草書房