2年生のテーマと解題

テーマ:「AIを中心とした第4次産業革命の進展がもたらす社会経済への影響と規制のあり方」

 AI(人口知能)の進展は社会経済を大きく変える可能性を秘めており、21世紀はAIの時代とも言われています。現状のAIは「特化型人口知能」と呼ばれるもので、特定の課題をこなすことだけに集中しています。これは、将棋、囲碁に特化した人口知能を思い浮かべていただければ理解しやすいかと思います。AIの進展がこのまま進めば、2030年頃には人間のような知的作業をこなす「汎用人口知能」の開発に目途がたつと言われており、2050年頃にはAIが人間に代わって車の運転を行うセルフドライビングカー(自動運転車)が普及しているという予測さえあります。AIの先進国となることは、21世紀の国家の地位を高めるうえで大変重要な政策課題になるでしょう。
 AIの進展は第4次産業革命との関連でも注目されています。その中心を担うのがAIで、そのほかにも、ロボット、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ビッグデータの活用といった新しいテクノロジーが第4次産業革命の担い手とされています。実際ドイツでは、2011年から「インダストリ―4.0」という国家的なプロジェクトを通じて、製造業を中心とした工業のデジタル化を積極的に進めることで、従来からの弱点であった高コスト構造からの変革を推し進めようとしています。
 AIを中心とした第4次産業革命の進展はこれまでの社会経済の様相を大きく様変わりさせるでしょう。このことは、規制をはじめとした経済政策のあり方にも変化を促すでしょう。従来の規制は、内燃機関や電気モーターの利用による第2次産業革命によってもたらされた重化学工業中心の経済、パソコンやインターネットに代表される第3次産業革命によってもたらされた情報化社会に合わせて考えられてきました。また、経済政策論や公共選択論が示唆するように、日本の規制は必ずしも経済の実態に適したものばかりではありません。
 2年生の皆さんは、第4次産業革命の時代を生きることになります。そこで皆さんには、AIを中心とした第4次産業革命の進展が社会経済に与える影響について考えていただきたいと思います。近年の議論では、AIの進展が人間の労働を奪い、これまでの仕事がなくなるといった悲観論で語られることが多く、そのことに関連してベーシックインカムを導入すべきという意見が多く見られます。皆さんには、このような議論にくみすることなく、よりマクロ的な視点で社会経済に与える影響を考えていただきたいと思います。AIや第4次産業革命の影響は経済面だけに留まるものではなく、必ずしも経済面だけに着目する必要はありません。ライフスタイルや価値観の変化といった点に着目してみるのも一つの方法です。
 このような大きな視野を持ちつつも、公共選択学会の学生の集いであるという点も意識して、新しい規制のあり方にも着目していただきたいと思います。規制が全くない社会を想定することは現実的ではありませんし、これまでの規制体系がそのまま通じるとも思えません。AIを中心とした第4次産業革命の時代に合った規制のあり方を検討するために、まず新しい社会経済の様相を描いてみてください。そして、そのような社会では何が便益をもたらし、何が問題になるかを検討してみてください。ある意味で近未来を語ることになりますが、この検討なしに規制体系を考えることはできません。そして、このような検討を通じて、新しい規制のあり方を提言してください。教科書的な議論に陥ることなく、新しい発想からの提言を期待しています。
 最後に参考文献を2冊ほど示します。いずれも新書なので比較的短時間で読めるかと思います。この参考文献を手始めとして様々な文献にあたり、皆さんで議論をして論文を作成してください。

(参考文献)
井上智洋(2016)『人口知能と経済の未来-2030年雇用大崩壊-』文春新書
竹中平蔵(2017)『第4次産業革命 日本経済をこう変える!』PHPビジネス新書